デザインマガジン🎈Balloon vol.36 「2024年リブランディング事例3選」

デザインマガジン🎈Balloon vol.36 「2024年リブランディング事例3選」
Balloon Inc. 2025.02.02
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新年を迎え幾ばくか日にちも経ちましたが、今回は2024年に注目を集めたデザイン事例を振り返りたいと思います。歴史ある企業のロゴ刷新や市場に大きな反響を呼んだリブランディングなど、デザイン界では数多くの動きがありました。今回は、特に印象的だった2024年のリブランディング事例を3点ご紹介していきます。

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01 iittala(イッタラ)

©iittala

©iittala

フィンランドデザインを代表する「イッタラ」、2024年に70年近く使われてきたロゴタイプを刷新し、良くも悪くも大きな話題になりました。サンセリフ体で描かれたロゴタイプから彫刻された碑文のようなデザインへ、大胆な変更と言えます。

1881年に設立されたイッタラは、フィンランドのイッタラ村で設立されたガラスメーカーブランドです。デザイナーやアーティストとのコラボレーション商品によって日本でもよく知られ、今やグローバルなデザインブランドに成長しています。近年ではガラス以外にもセラミックや金属といった素材への展開も行っています。

©iittala

©iittala

展開する商品は普段の生活に身近な食器類が多く、これまで印象的だった赤いモノグラムは、その品質の高さやブランドの識別記号として強い存在感を示してきました。上の写真のように、商品に貼られたモノグラムシールを剥がさずに使い続ける人もいるほど、ブランドとユーザーとの強い絆を表す象徴的な例となっています。

加えてデザイナーやアーティストとのコラボレーションによって生み出された商品にはデザインの名作と呼ばれるものも多く、1936年にアルヴァ・アアルトがデザインした「Alvar Aalto Vase」はその中でももっとも知られるデザインですね(下写真左)。

©iittala

©iittala

一方で経営面では順調とは言えず、この20~30年で同社は何度もオーナーが変わり、最終的に2007年にフィスカース・グループの一員となりました。2023年から新しいクリエイティブ・ディレクターのヤニ・ヴェプサライネン(JANNI VEPSÄLÄINEN)が指揮を執り、今回の新しいアイデンティティ刷新に至りました。彼女はJW アンダーソン、ジバンシィ、アレキサンダー・マックイーン、シモーネ・ロシャ、ザ・ロウなどで経験を積んだ人物です。

©iittala

©iittala

これまでのロゴタイプを参照しつつ、新たなデザインが開発されている模様を確認することができます。興味深いのは、あくまでタイポグラフィのみを参照しているように見える点ですね。

この中には「i」の赤いモノグラムなど、シンボルのデザインが含まれていません。(ロゴタイプ以外の)デザインについて、発表当初はウェブサイトにも掲載されていましたが、現在はすでに削除されているようです。InstagramなどのSNSでも、リブランディング前のポストは全て削除されているなどラグジュアリーブランドの振る舞いに似ている点も興味深いですね。

©iittala

©iittala

ロゴタイプは、同じスタイルを踏襲したフルフォント「Aino」にも拡張されています。優雅な雰囲気があり、彫刻された碑文のようにも見えます。歴史と伝統を感じさせるデザインで、これまでの幾何学的なサンセリフ体と比較してはっきりとした違いがみてとれます。

@iittala

@iittala

ブランドのカラーも鮮やかな黄色になり、パッケージやショッピングバッグについても同様の展開されています。実店舗のサインもすでに差し替えられており、大きく雰囲気が変わっていますね。

クリエイティブ・ディレクターの経歴をみても、今回の事例は家庭用品ブランドという枠を超えてファッションブランドとしての地位を確立しようとしている事が伺えます。

ストロークは細くなり、優雅なカーブによる品のあるデザインや「TT」が2つ繋がるユニークなディティールなど、オリジナリティーがある美しいロゴタイプですね。エネルギーを想起させる鮮やかな黄色によって綺麗なデザインにまとまっています。新しいクリエイティブのもとでデザインされた最初のコレクション、Iittala PLAY(イッタラ プレイ)も注目です。

02 JAGUAR(ジャガー)

©JAGUAR

©JAGUAR

1935年に設立されたジャガーは、英国の高級車メーカーで、映画『オーシャンズ12』や『007』などにも登場することでも知られています。長い間、ジャガーは英国の名ブランドとして君臨してきましたが、70年代に売り上げが低迷、米国フォードの傘下に入ったのち、2008年にはインドのタタ・モーターズに買収され、現在はタタ・モーターズの傘下にあります。

現在ジャガーは電気自動車の未来に目を向けており、これまでのロゴタイプから大幅に刷新、(他の自動車ブランドと似たようにも見える)幾何学的なサンセリフ体への変更を行いました。新しいアイデンティティとキャンペーンは社内で制作されたとのこと。

©JAGUAR

©JAGUAR

これまでのコントラストの強い書体(縦ストロークと横ストロークのウェイトの違いが大きい)から、均一な太さをもった幾何学的なサンセリフ体へデザインが変更されました。また全て大文字だったロゴタイプは「J」と「G」「U」は大文字、「a」「r」を小文字とし、大文字小文字を混在させるデザインに。これによって、「J」「r」が点対称の造形になりました。

展開として示されているモノグラムは、そのアイデアがうまく活用された円形に統合されたもので(ジャガーらしい高級感があるかどうかはともかく)シンプルなデザインにまとまっています。

©JAGUAR

©JAGUAR

©JAGUAR

©JAGUAR

車のエクステリアデザインのコンセプトモデルも発表されています。発表はモーターショーではなく、マイアミアートウィークというアートと文化の祭典で行われたことも特筆すべきです。シンプルな面によるエッジの立った構成で、サイドビューとフロントビューの造形のコントラストが興味深いです(が、サイバートラックほどのインパクトはありません)。

ビジュアルにはピンクと明るいブルーが用いられ、艶やかな印象を与えます。これまでジャガーが登場する『007』で描かれたようなヒーロー像とは異なるターゲットを想定しているようですね。アートウィークでの発表という広報戦略は、今後のカーブランドの新たな可能性を切り開く先駆的な取り組みとして期待が高まります。

03 GUGGENHEIM(グッゲンハイム財団)

© 2025 The Solomon R. Guggenheim Foundation

© 2025 The Solomon R. Guggenheim Foundation

ソロモン・R・グッゲンハイム財団は1937年に設立され、グッゲンハイム美術館を運営を行うことで知られています。2025年にはグッゲンハイム財団傘下最大の美術館、アブダビ・グッゲンハイム美術館をオープン予定。この美術館はフランク・ゲーリーが建築を設計し、約3万平米のスペースを持つ規模感です。

2024年にグッゲンハイム財団はブランドアイデンティティをリブランディング、デザインは英国ロンドンを拠点とするペンタグラムのパートナー、ハリー・ピアース氏です。

古いロゴは、ニューヨークの美術館のファサードに刻まれたレタリングをロゴに翻訳したものです。1992年のマッシモ・ヴィネッリが手がけ、2013年にペンタグラムのパートナーであるアボット・ミラーによってより現代的な形にリファインされました。

ロゴタイプのディティールは、そうしたDNAに忠実に「幾何学的なサンセリフ体」という方向性を踏襲しています。似た骨格を用いながら全体的にウェイトを太くし、文字間を広げて力強い印象になりました。(「G」の文字の水平のストロークの位置は大きく変わっています。)

© 2025 The Solomon R. Guggenheim Foundation

© 2025 The Solomon R. Guggenheim Foundation

今回の大きな変化はこの上のモノグラムの追加ですね。頭文字一文字「G」をモチーフに、一部をカットされた円形で統合されています。SNSのアカウントやグッズへの展開など、多様なメディアでの汎用性は高く設計されています。

シンプルで幾何学的な造形ですが、マージンの取り方や中心にあるエレメントの太さ、ストローク同士の間隔などやや親しみやすすぎる印象ですね。

© 2025 The Solomon R. Guggenheim Foundation

© 2025 The Solomon R. Guggenheim Foundation

© 2025 The Solomon R. Guggenheim Foundation

© 2025 The Solomon R. Guggenheim Foundation

ピクトグラムのデザインアセットも発表されています。こちらも知的な、というよりは親しみやすい印象を目指しているように見えます。モジュールの中での余白はかなり切り詰められ、余白の少ない大柄なイメージです。

禁止を示す斜線のストローク(ピクトグラムの機能的表現)と、ハンガーのストローク(対象を示すオブジェクト表現)の幅が似通っているなど、やや読み取りづらい点もありますね。

おわりに

今回は2024年にリブランディングされた印象的な事例を取り上げました。ここ近年、ラグジュアリーブランドを筆頭にサンセリフ体へのリブランディングが相次ぎました。そうした中でも「iittala」のようなチャンレンジングな書体デザインのリブランディングはとても心が高鳴るものです。

ジャガーは、ロゴタイプのリデザインに留まらず、アートウィークという場で発表するなど広報戦略事態の独自性も興味深く、実際の車のエクステリアやインテリアのデザインがどのようなものになって市場に出るのかが楽しみですね。

グッゲンハイム財団のリブランディングは、モノグラムが追加され、かなりカジュアルな印象へ転換しました。ロゴタイプやピクトグラムのデザインも含め、全体として親しみやすいデザインです。アラビア語での展開、アラブ圏でどのように受け入れられていくのか注目していきたいと思います。

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