デザインマガジン🎈Balloon vol.42「命をつなぐデザイン ALEM」と「血液を運ぶ魔法瓶」

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命をつなぐデザイン
今回紹介したいのは、大阪・関西万博のカザフスタンパビリオンにて展示中の、カザフスタンで開発されたALEM(Astana Life Ex-situ Machine)という装置です。これは、ドナーから提供された臓器を移植に向けて最適な状態で維持し、安全に送り届けるためのシステムです。この技術によって、摘出された臓器を最長24時間以上ものあいだ、体内と変わらない環境で機能させ続けることができるようになります。
臓器移植において、時間は最も重要な要素です。臓器は摘出後、機能しなくなるまでのタイムリミットが平均してわずか4〜6時間と言われています。
日本臓器移植ネットワークによれば摘出された臓器には、血流が止まっても機能が維持できる時間(虚血許容時間)がそれぞれ異なり、それが搬送にかけられる時間の目安となります。比較的、虚血許容時間が長いと言われる膵臓や腎臓でも、搬送が可能な時間は24時間に及びません。そのため日本国内であれば、ヘリコプターや航空機といった特別な輸送手段が用いられることも少なくありません。
特にカザフスタンのように国土が広く(国土面積は日本の約7倍)、地域間の移動に数百〜数千キロを要し、さらに天候やインフラの影響を受けやすい国では、この時間制限を守ることが非常に困難です。そのためドナーとレシピエント双方の準備が整っていたとしても、時間の制約によって移植が実現できないというケースも少なくありません。

そうした課題に対する一つの解決策が、このALEM(Astana Life Ex-situ Machine)です。この装置内に擬似的な体内環境を再現し、搬送時間の延長を実現します。
加えて臓器の状態を観察するだけでなく、薬剤投与、体液除去、超音波検査や冠動脈造影といった処置も可能で、移植前から治療を開始することができます。

模型の心臓に二つの管が繋がれ、血液を流し込んでいます。また、上の写真下側手前にある白い円筒形のものは腎臓の代わりの役割を果たし、血液を濾過する機能を持つそうです。

臓器の状態をわかりやすく把握するために、透明なアクリルのカバーが目を惹きます。その背面側には上下に2つのLCDが搭載されています。この装置には、高性能なセンサーとモニタリング機能が組み込まれており、臓器の温度、圧力、血液中のガス濃度といった重要な状態が、リアルタイムで細かくチェックが可能です。
本体に目をやると、LCDスクリーンの周りには物理的なスイッチが配置され直感的な操作ができそうです。しかし、公開されている紹介ムービーでは、LCD画面内にもUIボタンが表示されているのがわかります。物理的なスイッチと、画面内のタッチ操作による疑似的なボタンという、操作感の異なる二種類のボタンが共存している点は操作感に影響が出るかもしれません。
装置のサイズもコンパクトで、500ミリ程度の幅しかありませんし、重量も50kg以下。バッテリーも内蔵しており、可搬性にも優れています。
現在、初の実臨床使用に向けた準備が進められており、生産拠点の建設もスタートしたのこと。その土地ならではの課題に対し、デザインの力で一つの解決策を提示している。この装置は、まさにそうした地域社会のニーズに応える試みとして、個人的に非常に興味深く感じました。
血液を運ぶ魔法瓶
この装置を見た時に思い出したのは、戦後の日本の工業デザインを牽引したGKデザインの榮久庵憲司氏のこんなエピソードです(出典が見つけられませんでした、、、もしご存じの方がいらっしゃいましたら教えてください🙇)。
魔法瓶のメーカーからデザインを依頼され、その打ち合わせの中で、
「この魔法瓶で血液は運べるのか?」
と担当者に聞いたそうです。
一般的に魔法瓶において重視されるのは容量や保温性、重さなどでしょう。デザインを検討する場合でもその視点は変わらないはずです。そんな中でも「液体を持ち運ぶと」モノの可能性を考え、全く異なる視座によってデザインの対象を見つめる、という素晴らしいエピソードだと思います。
社会に対して、デザインがどういった役割を果たすことができるのか、コンセプトを立てるために抽象度をコントロールするという観点でも、非常に学びの多いものだと思います。
今回紹介したALEM(Astana Life Ex-situ Machine)という装置は、大阪・関西万博のカザフスタンパビリオンで直接見ることができました。日本語が話せるスタッフから説明も聞くことができますし、非常に興味深い内容でした。行かれる機会があれば、是非覗いてみてください。

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