デザインマガジン🎈Balloon vol.55 時計の針の角度とブランドの擬人化について

vol.55 時計の針の角度とブランドの擬人化について
Balloon Inc. 2025.08.14
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なぜアナログ時計はいつも10時10分を指しているか

ある調査によると、アマゾンのサイト上で男性用のドレスウォッチのベストセラー商品100個のうち、実に97個が「10時10分」を指していたという結果が出たそうです。多くの方も、時計の商品写真をイメージした時に思い浮かべる時間は「10時10分」が多いのではないでしょうか?実際に日本のアマゾンや画像検索においても、ほとんどがこの時間を指し示しています。

ではなぜ、アナログ時計はいつも10時10分を指しているのでしょうか?これらの理由を説明しようとしたドイツの研究者(Karimほか)が実験的にこれを評価した結果、人々は「彼らに微笑みかけている」それらの時計(の針の指す角度)が好きだと判明したとのことです。たしかに文字盤上のこの針の位置は「笑っているように」見えますね。一方で、時計はいつも微笑みかけていたわけではありません。1920〜30年代の広告の大半は8時20分(しかめっ面)にセットされていたようです。今日、製品を微笑ませるのは当たり前になりましたが、そうしたアイデアは偶発的に発見されたと言われています。

シンボルマークに「スマイル」を組み入れたブランド

対象をあたかも人のように扱い、笑顔や表情を模したクリエイティブで感情的なつながりを強化する手法は、ブランドのシンボルロゴにおいても広く活用されています。笑顔を連想させる緩やかなカーブは、見る人に自然とポジティブな印象をもたらしますし、特に「スマイルカーブ」と呼ばれる人の表情を思わせる形状は、口角が上がった笑顔を連想させ、親しみやすさや幸福感を瞬時に伝える効果を持ちます。近年では、この効果を意識的に取り入れたブランドのシンボルマークやロゴタイプの事例が数多く見られます。Amazonのa→zをつなぐオレンジの矢印や、Colgateの口角のようなカーブ、LGTUIの笑顔を想起させるシンボルマークなどが代表例です。

また、これらのシンボルマークを見比べると、スマイルカーブの部分には暖色系のカラーが多く用いられていることがわかります。

色彩と感情 ― カラーがもたらす心理的効果

ブランドの色彩は視覚的な印象だけでなく、感情や態度にも大きく影響します。食品・飲料業界における調査では、赤は活力や情熱とともに「幸福(Happiness)」の感情を喚起し、黄色はその中でも特に高い幸福感や陽気さを連想させることが示されています。一方で、青は信頼感や落ち着きを連想させる色である反面、状況によっては「悲しみ(Sadness)」とも結びつく傾向があります。こうした心理的特性から、スマイルカーブに寒色系、特に青系のカラーリングが採用される例はごく少なく、むしろ暖色系の方が形状の持つ親しみや温かさを一層引き立てる配色として選ばれることが多いと言えるでしょう。

また、スマイルカーブはその形状が人の唇を想起させるため、温かみや親しみを直感的に伝えやすいという特徴があります。そのため、多くの場合は赤やオレンジなどの暖色系のカラーが採用され、視覚的にも感情的にもポジティブな印象を強調しています。こうした色彩心理の理解は、ブランドのシンボルロゴのデザインにおいて、単に視認性を高めるだけでなく、ブランドが届けたい感情価値を的確に表現するための重要な要素となります。

擬人化されたブランドとその効果

ブランドのシンボルマークは、人ではなくあくまで「モノ」です。しかしこうした「モノ」に対して、あたかも人のように扱う考え方を「擬人化思考」と呼びます。ある調査によると、回答者の32%が自分の車に名前をつけると回答したそうです。これは単なる愛着の表れにとどまらず、対象に人格や感情を投影することでより強い心理的なつながりを築こうとする人間の本能的な行動です。ブランドのロゴやシンボルも同様で、スマイルカーブや顔を思わせる形状はこの擬人化思考を促進します。形状や色彩によって「優しそう」「信頼できそう」といった人間的な特性を連想させることで、ブランドは消費者の心に長く残る存在へと進化するのです。

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