デザインマガジン🎈Balloon vol.25 公共トイレの隠れた課題とユニバーサルデザイン
ブランディング・UX・グラフィック・プロダクト・UI・Webサイトなどクリエイティブ全般をカバーするデザインコンサルティングスタジオ Balloon株式会社がお届けするデザインマガジンです。
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今回のデザインマガジンでは世界のデザインニュースをBalloonの視点で紐解いていきます。
取り上げるニュースはこちら。
The Hidden Challenges Of Public Restrooms:A Call For Inclusive Design(公共トイレの隠れた課題:インクルーシブデザインへの要請)
公共トイレは、あらゆる人が日常的に利用する不可欠な施設です。しかし、その設計や運用において、真の意味での包括性が実現されているかどうかは、慎重に検討すべき重要な課題です。能力の違い、年齢層の幅広さ、さらには多様な人口統計的・心理的要因を考慮に入れると、すべての人々にとって快適で使いやすい公共トイレを実現するためには、綿密な計画と積極的な取り組みが不可欠です。
公共トイレの隠れた課題:
『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』に公共トイレにまつわる最新の調査結果が発表されていました。2,000人のアメリカ人を対象にした調査によると、回答者の半数以上が公共または職場のトイレの使用にハードルを感じているそうです。
プロダクトデザインの文脈でみると、アメリカは「ユニバーサルデザイン」において先進的な取り組みをしてきた国といえます。アメリカ障害者法(ADA)を1990年にいち早く策定し、障害のある人が利用しにくい施設を「差別的」と位置づけました。雇用の機会均等と、製品やサービスへのアクセス権を保障した画期的な制度です。
また、ロン・メイス氏によるユニバーサルの7原則は、そうした法制度を超えてデザインによってあらゆる人々に対して快適に暮らすことができる理想をめざしたものといえるでしょう。
そうした歴史的な積み重ねがありながら、それでも半数のアメリカ人が公共トイレにバリアを感じているというのは、いかにユニバーサルなデザインの実現が困難かということの証左ではないでしょうか。
記事の中でEssity North AmericaのDEI(多様性、公平性、インクルージョン)ディレクターのアミー・クロミス氏は「ADAに準拠しているからといって、必ずしもトイレが完全にインクルーシブであるとは限らない」と制度によるユニバーサルデザインの限界について述べています。
また性別によるトイレの数と待ち時間についても「女性用トイレの待ち行列は男性用トイレの待ち行列よりも長いことが多く、女性は急かされていると感じ」るそうで、これは日本でも同様の課題がありそうです。
今回の調査を実施した「Tork」ではインクルーシブデザインの手法を採用し、利用者や清掃作業員をデザインプロセスに含めた取り組みを進めているとのことで、真のユニバーサルデザインが公共トイレで実現すればすばらしいですね。
日本の公共トイレにおけるユニバーサルデザイン:
日本における公共トイレは、比較的衛生的で多様な人達への配慮もかなり進んでいるというのが個人的な感想です、もちろん新しい施設に限るのですが、以下に最近見かけた公共トイレの例を示したいと思います。
一つ目は2021年に竣工した「沖縄アリーナ」です。2023年には「FIBAバスケットボール・ワールドカップ」が開催されたスタジアムなので、ご覧になった方も多いかも知れません。
このスタジアムのトイレは、女性用の個室の数が24に対して男性は6と、実に4倍確保しています。また左のようにリアルタイムでトイレの使用状況がひと目でわかるディスプレイが廊下に一定間隔で設置されており、混雑状況が瞬時に把握できるのも素晴らしいですね。
トイレ内は、扉についたサインがとても工夫されていました。使用中かどうかを一目で示すためのものですが、シンプルながら分かりやすく、どのトイレでも実現可能なデザインです。(許可を得て撮影しています)
二つ目は日本オリンピックミュージアムのトイレです。こちらも2019年竣工で新しい施設ですね。多目的トイレは車椅子がトイレ内で回転できる寸法になっており、洗面台や緊急ボタンの位置も適切に設計されています。清潔感があり、衛生的に保たれていました。
またトイレのピクトグラムも男性と女性の間にもう一つ金色で描かれたシルエットがあり、
オールジェンダーを示しているのも特徴的でした。
トイレのピクトグラムデザインの変遷については以下のメルマガ No.13でも取り上げています。
WSJの記事の最後には、DEI(多様性、公平性、インクルージョン)ディレクターのアミー・クロミス氏の言葉によって締めくくられています。
「私たちの究極の目標は、できるだけ多くの人々の衛生アクセスを改善できるあらゆる方法を探り、解決することです」
国連も「適切かつ公平な衛生施設と衛生習慣へのアクセス」を2030年に向けた持続可能な開発目標の1つに挙げており、デザインの力によって公共トイレのユニバーサルデザインが推し進められることを期待したいですね。
おわりに
最後までお読みいただきありがとうございました!デザインマガジン🎈Balloonは毎月2回配信予定です。本メールマガジンの感想や質問などをSNSに投稿していただけると嬉しいです。次回配信もお楽しみに!
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