デザインマガジン🎈Balloon vol.13「スポーツリテラシーと女子サッカーのジレンマ」と「ピクトグラムにおける男女のシルエット」

vol.13「スポーツリテラシーと女子サッカーのジレンマ」と「ピクトグラムにおける男女のシルエット」
Balloon Inc. 2023.12.01
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デザインマガジンでは、上の句として「デザイン“以外”の話」、下の句として「デザインの話」をお届けします。では早速、「デザイン“以外”の話」から。

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上の句:スポーツリテラシーと女子サッカーのジレンマ

日本ではどのメディアが女子W杯の放映権を購入するのかと揉めて(放映権料がお高いのでどのメディアも手を挙げにくかった模様)、やっとこさNHKで放映されることになったのが記憶に新しいです。女性スポーツの振興を盾にして放映権料を高く売りたいFIFAと、視聴率がとれるからって放映権料をいくらでも支払えるわけじゃないメディアという以下のような事情があった模様。

  • これまでは男子サッカーと女子サッカーの放映権をセット売りにしていたものを、今回から男女別々に放映権を販売することにした

  • サッカー人気に伴い高騰し続ける放映権料。男子サッカーの放映権料にこれまでと同じかそれ以上の額を支払った上で、女子サッカーの放映権も購入しないといけないとなるとメディア側はとても大変

放映権問題はなんとか落ち着いたのに、優勝後、今度はスペインサッカー連盟の会長がやらかしてまたしても問題が発生

放映権問題はなんとか落ち着いたのに、優勝後、今度はスペインサッカー連盟の会長がやらかしてまたしても問題が発生

ところで、「文化資本」を提唱するブルデュー先生によると「スポーツのルールがわからない人が、試合結果と感動ストーリーを消費している(超訳)」とのことで、こちらとしてはぐぅの音も出ません。甲子園球児の感動ストーリーとか、オリンピック選手の感動ストーリーとか…。ただ、個人的にはそういう消費もひとつの楽しみ方ではあるし、なんなら「あの選手かっこいい/かわいい」といったミーハーな理由も立派な楽しみ方のひとつであると思います。選手のプレイの技巧がわかれば王道ファン、選手のプレイの技巧以外の部分を応援していたらにわかファン、なあんて区別は不要です。

ところで、すべての人が「試合結果と感動ストーリー」だけではない「スポーツの技巧的な面白さ」がわかるようになったとしたら、やっぱり女子サッカーよりも男子サッカーのほうがパワフルで面白いなんてことにならないですかね?うーん、ジレンマだなあ。

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下の句:ピクトグラムにおける男女のシルエット

デザインにおいても、男性・女性の表現は時代によって大きく移り変わります。

その最たるものは、トイレのサインデザインではないでしょうか。今から50年以上前、1964年の東京オリンピックで使用されたトイレ用のピクトグラムデザインはこのようなものでした。

チーフデザイナーの田中一光氏を筆頭にデザインされたこのピクトグラムは、女性がまるでパニエをはいているかのようなシルエットになっています。特にウエスト回りは華奢な細さが強調され、過剰に女性性を表現しているような印象です。

社会状況の変化に応じてこうしたデザインは徐々に減っていき、近年では男性と女性のシルエットは比較的近いものになっています。

例えば2019年に開設された日本オリンピックミュージアム施設内にあるデザインを見てみましょう。

これはオールジェンダートイレ用のサインデザインです。真ん中に片方だけがスカートになったようなシルエットの人がいるデザインが特徴的ですね。

女性のシルエットも裾が広がっていますが、ウエストの細さが強調されることはなくストレートにつながっているデザインになっています。色使いも綺麗でコントラストが適切に確保されている良いデザインですね。

トイレのサインひとつとっても、施設それぞれの姿勢や捉え方が異なって興味深いものです。そうした中で、個人的にもっとも素晴らしいと思ったのがApple社内にあるデザインです。

まずはその変遷を振り返ってみましょう。2017年まで使われていたものは、Macintosh初期の頃のアイコンを彷彿とさせるようなドットを用いたものでした。(2010年に訪れた際に撮影したものです。)

男性は髪が短く描かれる一方、女性は後ろで髪を束ね、まつげやピアスが描かれている可愛らしいデザインです。

その後2017年にAppleは社屋を新しく建て直しましたが、その際に変更されたピクトグラムデザインは以下のようなものです。

男女のシルエットの違いは本当にわずかです。女性の胸からスカートの裾まで徐々に広がるシルエットですが、こちらもウエスト周りは強調されていません。その広がりの角度も最小限のもので、サインとしての機能性を維持したままできる限り両者のシルエットギャップを抑えていることが見てとれます。

冒頭の1964年の東京オリンピックでデザインされたピクトグラムと比較すると、その差は歴然ですね。

「様々な人」が利用する公共空間におけるピクトグラムは、出来る限り多くの人が理解しやすい最大公約数的なデザインであるべきです。例えスカートを穿かない女性がいるとしても、トイレのサインとして機能するためにスカートのシルエットを用いることは理にかなっています。

一方、その表現については社会状況や意識の変化に応じて少しずつ細部のディティールを修正していく必要があります。今回見てきたトイレサインの例をみても、そうしたデザインにおける役割が見て取れる好例ではないでしょうか。

皆さんも身の回りにあるトイレのサインデザインに注目してみてみると、新たな発見があるかもしれません。

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おわりに

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