デザインマガジン🎈Balloon vol.18「人間らしさの話」と「らしさとしるしの話」
ブランディング・UX・グラフィック・プロダクト・UI・Webサイトなどクリエイティブ全般をカバーするデザインコンサルティングスタジオ Balloon株式会社がお届けするデザインマガジンです。
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デザインマガジンでは、上の句として「デザイン“以外”の話」、下の句として「デザインの話」をお届けします。では早速、「デザイン“以外”の話」から。
上の句:人間らしさの話
「高度に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」というアーサー・C・クラークの言葉が好きです。これをちょっと置き換えて、「高度に発達した人間は、植物と見分けがつかない」ってのはどうでしょうか。
現代社会においては「医療費の増加」「環境破壊」などが課題として挙げられまして、「みんなに健康になって欲しい」「環境の維持、あわよくばより良い状態になって欲しい」と人間は祈り、研究し、活動をするわけです。となると、医療が不要(ってことにしとこう)で、環境を破壊しない、なんなら二酸化炭素を吸収して酸素を排出する植物ってかなり理想形ではないでしょうか?迷惑をかけない環境に優しい存在の植物。究極的にはここを目指せばいいのかもと思いながらもう一度、「高度に発達した人間は、植物と見分けがつかない」。
でも、限りなく植物に近づいた生活ってちょっとつまらないような…。あくまでも人間側の言い分ではあるのですが。いくらかのだらしなさと、無駄と、娯楽があるのが人間らしい生活なんじゃないかな。そんなんじゃだめかな。そう思いながら暖房の効いた部屋で、冷凍庫からアイスを取り出し、スマートフォンを眺め、地球の環境にちょっと悪影響を与えています。
下の句:らしさとしるしの話
「○○らしさ」を具現化するのがデザインの一つの役割だと思います。特にブランディングでは、その会社やサービスが持つ独自性をいかにデザインに落とし込むか、という観点は欠かせません、
今では当たり前のように身の回りにあるシンボルマークですが、ブランドに使われる記号やしるしについて調べていくと思いもよらない話に出会う事があります。
商業ブランドは、日本だけでなくヨーロッパでも19 世紀後半になって本格的に始まったと考えられています。主に商標にまつわる法整備が行われたことに起因しますが、日本ではそうした分野以外にも興味深い「しるし」が用いられていました。
明治22年(1889年)に発行された「東京人類学会雑誌」第三八号によると、茨城県久慈郡小菅の西方にある持方と、その隣にある安寺という(合わせてわずか17軒の)集落では、住民が読み書きできないため記号で各家のしるしを定めていたようです。年貢の収納などの記録も、この土地独特の金額や数量記号が用いられていたそうです。
この調査の際に「めくら帳」と呼ばれる家々のしるしを定めたものが発見されています。これらのしるしは縦・横の直線、点や十、口といった非常にシンプルな記号の組み合わせから成り立っています。
このしるしの特徴として「横線八本・縦線六本・点ニツ」というように、他の家々との識別のために、非常にたくさんの線や点を一つのしるしに用いている点です。
用いられている記号を以下の図のように色を変えて分類すると、「横線・縦線・点・口」のわずか四種類しかないことも興味深いですね。
家の数が増えるほど、識別するための記号の数も増え、徐々に縦長になっていくようにも見えます。その結果プロポーションが少しずつ異なるデザインなのはあまり他で見られない特徴と言えそうです。(十は縦横の線を交差させたものとしてカウント)
家のしるしとしては非常にプリミティブで、まるで何かの符号のようにも見えます。
こうした家々を識別する「しるし」については、茨城県からはるか遠く離れた沖縄県の与那国島にもみられます。
明治になる前まで、与那国では、多くの庶民が文字の読み書きが出来ませんでした。そのために考案された、象形文字の一種「カイダー字」という独自の文字体系があるのですが、それがベースとなった「しるし」です。それぞれの家を判別するために以下のような「家判」が用いられていました。
こちらも非常にシンプルな記号の組合せで表現されていますが、どれも正方形に近いプロポーションに収まっているのはさきほどの例との大きな違いでしょうか。
そのため現代におけるピクトグラムやアイコンのように見えなくもありません。カイダー字が象形文字であることを考えると、具体的な姿形を表した形状を組み合わせたデザインと言えそうです。
縦線、横線、点や口など上記の「めくら帳」で見られたものと同じ要素を赤くハイライトしました。限られたスペースで識別機能を果たそうとしたためか、より多くの要素(黒色要素)が用いられている事がうかがえます。
こうして見ると、仮に文字が読めなくてもシンプルな図形・記号は、ほとんどの人にとって識別(が容易に)可能である事に驚かされます。
人々の記憶に残りやすいブランドのシンボルマークの多くが、シンプルな形状であることはよく知られています。このシンプルさが、かつて人々が用いてきた「しるし」と同様に、容易に識別できる強さを持っている理由かもしれません。
おわりに
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