デザインマガジン🎈Balloon vol.45「カタールパビリオン」と「かたちをとどめるデザイン」

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カタールと日本の伝統の融合
カタールは、中東のアラビア半島北東部に位置するカタール半島を領土とする、ペルシャ湾に突き出した小さな半島国です。公用語はアラビア語で、国教はイスラム教の国です。
国土の大部分は砂漠が占め、夏は酷暑に見舞われます。一方豊富な石油と天然ガス資源に恵まれ、世界有数の高所得国として知られています。天然ガスの産出量は世界で6番目で、そうしたエネルギー産業を中心に発展しています。

近年は国際会議の開催やスポーツイベントの誘致に力を入れており、2022年にはFIFAワールドカップを開催しました。
サッカー・カタールといえば、1993年に行われたサッカーワールドカップアジア地区最終予選での「ドーハの悲劇」でも知られていますね。現在のようなエネルギー産業が発展する前、もともとドーハは小さな漁村だったそうです。そこでは主に漁業と真珠採りが行われていました。
こうした真珠産業はカタール全土で行われており、それには下の写真のような「ダウ船」を用いていました。今回の大阪関・西万博でのパビリオンのデザインモチーフとなったのもこのダウ船です。
カタールパビリオンは、隈研吾建築都市設計事務所が手がけ、カタールの伝統的な帆船のダウ船と日本の伝統的な指物(釘を使わずに木を組み合わせて家具や箱物を作る日本の伝統工芸)の技術にインスピレーションを受けています。
ダウ船は、外板を固定するための釘を一切使わず、紐やタールで組み立てることも特徴で、日本の指物との共通点も見て取れます。

外観を外から見ると、天地が逆転し、空に向かって引っ張られているような独特なかたちが印象的です。
白いテント地のような素材で、金属の太いパイプに沿ってテンションをかけて貼られているようです。壁や柱は木材を連ねて構成されていて、道の外側の柱を支える部分には水が張られているなど、非常に凝ったつくりとなっています。

入館したのは日が暮れた後だったのですが、ライトアップされて幻想的な印象すらありました。
かたちをとどめる・柔と剛のコントラストのデザイン

エントランスを入ると大きな展示室に続くアプローチがあります。一般的なオフィスの廊下程度の幅で、来館者はそこに集まって説明を聞くことになります。
この場所で最初に目にとまるのは、透明なパイプで敷き詰められた壁面ですね。よく見ると一本一本独立した透明なアクリルのパイプで、それぞれ砂漠の砂が充填してあります。

近くで見るとこんな感じです、一本一本に砂を詰めていったかと思うとかなり気が遠くなる作業ですね。
一つ一つ高さが異なるのは、カタールの海岸製を模しているためとのこと。国土の大部分を砂漠に囲まれた国が、砂によって海岸線を描く、というアイデアはとても素晴らしいと思いました。
砂漠の砂は粒径が比較的均一で細かい特徴があるそうで、そうした点からも、近い距離の鑑賞に堪えうる素材と言えそうです。かたちの無い、抽象的な「砂」という素材を、自国の歴史や文化を反映したデザインに昇華させ、一貫したコンセプトが見事に表現されていると感じました。
同じ砂という素材を用いたヨルダンパビリオンでは、砂丘をつくってその上を歩くという、直接身体で砂に触れてもらうというアプローチを採っていますし、こうした比較ができる点も万博の魅力だと思います。

メインの展示室です。皆さんが見ているのは展示台に描かれたカタールの歴史、金属質の素材で、シャープで硬質な面を印象づけていました。
円形(パイプ)・砂・カーブ(カーテン)といった、柔らかい造形に対して、展示台や大型ディスプレイのデザインは、非常にエッジの効いた剛い形状、テクスチャーを用いています。
この柔と剛の明確なコントラストとゾーニングも素晴らしいデザインだと思いました。

9mくらいでしょうか、見上げるほどの天井の最上部からカーテンが吊り下げられ、展示室の四方の壁を彩っていました。厚手の布地に、印刷と一部に金糸による刺繍が施され雰囲気のあるデザインです。

展示の写真やオブジェクトなども丁寧につくられており、全体として非常にクオリティの高いパビリオンだったと思います。細部までこだわり抜かれたデザインは、まさに圧巻です。
廉価なグッズショップ
展示の品質も高く、見応えのあるパビリオンですが、最後にあるグッズショップにも驚きがあります。下にいくつか紹介したのですが、他パビリオンと比較して非常に廉価な価格設定です。最初、桁を間違えたのでは?と思ったほど…
安いからといって出来が悪いわけでは決してなく、どれも綺麗につくられており、統一感のあるパッケージも魅力的です。

マグネット:700円
パビリオンのデザインやシンボルマークがあしらわれたマグネット。特産品である真珠やアラビア語で描かれたデザインなど種類も豊富です。

色鉛筆とロールペンケースのセット:990円
色数の多いわりに、安すぎませんかね?鉛筆のなる木でもあるのかな。

フラッグ:1250円

スマートフォンリング:800円
日本人の著名な建築家、隈研吾氏が手掛けたカタールパビリオンは、外観の美しさもさることながら、内部では、普段なかなか触れる機会のないカタールの歴史や文化を深く知ることができました。
予約不要で、比較的スムーズに見学できますので、万博に行かれる際はぜひ足を運んでみてください。きっと素晴らしい発見があるはずです。
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