デザインマガジン🎈Balloon vol.5
ブランディング・UX・グラフィック・プロダクト・UI・Webサイトなどクリエイティブ全般をカバーするデザインコンサルティングスタジオ Balloon株式会社がお届けするデザインマガジンです。
デザインマガジンでは、上の句として「デザイン“以外”の話」、下の句として「デザインの話」をお届けします。では早速、「デザイン“以外”の話」から。
上の句:高級キーボード沼の話(デザイン“以外”の話)
大人になったらハイブランドの高級バッグを持ってキャッキャうふふしてると思っていたのに、ヨドバシに通い詰めてPCのキーボードの打鍵感をひたすら試し、「赤軸、茶軸…」と呪文を唱えながら高級キーボードを買っています。ある意味、予想できなかった未来を生きています。
キーボードに全く興味がない方もいらっしゃるかと思うのですが、すごく雑に今回の購入に至るまでを説明します。私が使用しているPCはAppleのものなのですが、どうやら世の中のPCアイテムというのはWindows向けがすごく多い。そのため、Macに対応しているかを確認して→個人的必須条件テンキーがついているものを探すとこの時点でかなり候補が絞られました。そして先程の呪文「赤軸、茶軸」。これは各ボタンの裏についている軸のことで、打鍵感に関わるらしい。実際に試してみたところ、青軸は打鍵感をしっかり感じる(なんなら喧しい)し、茶軸は少し重い感じがする。個人的には赤軸の打鍵感がしっくり来たので赤軸のものにしました。
そうして購入した高級キーボード。早速パソコンとペアリングして打鍵感を楽しんでいます。さて、このあとどうなると思います?なんと今はキーボードキャップと、キーボードを載せられる後付引き出しを検索しています。沼の隣には沼があって、さらにその隣にも沼があります。
下の句:Appleのデザイン言語”スノーホワイト”の話(デザインの話)
キーボードと言えば、Appleではキーボード用書体に関する規定があるのをご存知でしょうか?
優れたデザインとして知られるAppleですが、その転機となったのは1980年代初めからそのクリエイティブを支えたフロッグデザイン(とハルトムット・エスリンガー)と言えるでしょう。
エスリンガーはスティーブ・ジョブズらAppleのデザインチームとともに、スノーホワイトという「デザイン言語」を開発します。デザイン言語とは「インダストリアルデザインに一貫性を持たせ、すべての製品のルック&フィールを統一化する」ためのデザインルールです。
『フロッグデザイン創設者 ハルトムット・エスリンガー 形態は感情にしたがう』によるとエスリンガーの開発した「デザイン言語」は以下のようなもので、中でも最後の項目では(キーボード用)書体に関する規定が見られます。
●ゼロドラフト(抜き配なし)のスレートを組み合わせた人型の形状。サーフェスのテクスチャは最小限。塗装なし。傾斜が必要な場合には、その部分は必要最小限(モニタ)。サイズも重量も極力抑える。
●可能な限り、左右対称。
●前面から背面にかけてのスリット:幅2ミリ、深さ2ミリ、グリッド 10ミリ、前面のくぼみ=30ミリ、背面のくぽみ=4~10ミリ。
●色:白。対比色は柔らかいオリープグレー(1984年後期には「プラチナ」と呼ばれるライトグレーに変更。
●プランディング:アップルのロゴマークのみをデザインに馴染むように埋め込む。製品名はタンポン印刷で印字、色はダークグレー。フォント:アドリアン・フルティガー (Adrian Fruticar) による universe(condensed italic) および Garamond (condensed)
下の写真はエスリンガーデザインのCI計画「ニューブランドイメージ」で提案されたキーボード用の文字です。スイスの書体デザイナー、アドリアン・フルティガーによってデザインされた universe が指定されています。
また、こちらの写真では実際のプロトタイプでも同じ書体が用いられているのが確認できます。
「スノーホワイト」ノートブックコンピュータコンセプト(1983年)
universe という書体は他のグロテスク系サンセリフ書体と同様、筆記体に近い形のバージョンは(イタリックでは無く)オブリークで設計され、現在入手が可能なフォントも同様です。「デザイン言語」スノーホワイトで指定された書体とほぼ同等の「Univers 47 Condensed Light Oblique」をエスリンガーのプレゼンテーションと比較してみました。
興味深いのは、元の Oblique書体から更に角度を倒し、かつ文字幅を細く調整している点ですね。恐らくキーボードの物理的なサイズとキーピッチなど、人間工学的な観点から適切な角度を導き出し、それに応じて書体に調整をかけたのではと推測します。
一方で、「@」「#」といった記号は、正体と呼ばれる傾きの無いものを用い、可読性を優先したと思われます。「デザイン言語」を単にマニュアル的に運用するだけでは意味を成さない、というデザインに対する姿勢が垣間見えるポイントです。
ブラインドタッチという言葉があるように、キーボードを使いこなすようになるとキーそのものを見なくても入力出来るようになります。しかし、それでもキーボードの書体一つ一つにまでデザインすることには重要な意味があります。実際Appleブランドの成功にも、そういった細部まで丁寧に作り込まれているデザインが寄与していると言えるでしょう。
現在では、たくさんのキーボードメーカーが素晴らしいデザインのキーボードを提供しています。それぞれのブランドは独自のイメージやターゲットに合わせて、さまざまな書体を採用しています。皆さんも手元のキーボードの書体にも注目してみてください。キーボードのデザインにも目を向けることで、より快適なタイピング体験ができるかもしれませんよ。
おわりに
最後までお読みいただきありがとうございました!デザインマガジン🎈Balloonは毎月2回配信予定です。本メールマガジンの感想や質問などをSNSに投稿していただけると嬉しいです。次回配信もお楽しみに!
『ブランド・アイデンティティ・デザインのためのロゴマーク5分類の比較と分析』
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