デザインマガジン🎈Balloon vol.8

vol.08 「マンガのストーリーを誰が説明するのかという話」と「恐怖と暴力のブランディングの話」(850字+1600字くらい)
Balloon Inc. 2023.09.15
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デザインマガジンでは、上の句として「デザイン“以外”の話」、下の句として「デザインの話」をお届けします。では早速、「デザイン“以外”の話」から。

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上の句:マンガのストーリーを誰が説明するのかという話(デザイン“以外”の話)

マンガのストーリーが複雑になってきた昨今。個人的にはそれに伴って「読者に対して説明的になりすぎないように気をつけながら、どうやってストーリーや状況をマンガ内で説明するのか」という問題があるように感じています。そこで今回は、「漫画内の状況を語る方法としてその手があったか!!」と唸った漫画についてご紹介します。

まず、その漫画のタイトルは『SAKAMOTO DAYS』。殺し屋が主人公で殺し屋がいっぱい出てくるアクション漫画です。その中に登場する人物で12巻の表紙にもなっているキャラクターがいます。名前は京。キャラクター説明はこんな感じ。

超有名な殺し屋映画の監督。映画が全て。

彼は映画監督なので殺し屋のみなさんが戦うときの映像を撮りながら戦います(本当です)。戦いながら戦況について映画監督の視点から語ります。アングルが悪い、今のは良い映像だったなどなど。これがまた読者にとって非常にわかりやすい。しかもニクいのが、「映画監督」のキャラクターが「映画」の話をしているという設定なので全く説明的じゃないところ。メタっぽいというか入れ子方式というか、まあとにかく作中に映画監督のキャラクターを登場させて語らせるなんていう方法があったのかと感動したわけです。

SAKAMOTO DAYSはONEPEACEと違ってキャラクターが退場していくタイプの漫画なのですが、この映画監督キャラはストーリーの説明役としてもしっかり機能していることもあってかまだ退場しておらず、しゃかりき戦いながら作中で映画を撮っています。まさか最終回まで生き残って、「撮影終了!この映画のタイトルは…SAKAMOTO DAYSだな!」とか言って終わらせるつもりなんじゃないだろうか。

蛇足ですがこちらの12巻の試し読み部分は、映画監督とは別のキャラクターたちが京都の町で戦いを繰り広げているところです。個人的にSAKAMOTO DAYSのアクションシーンはアングルが映画っぽくて、画だけで誰がどうやって戦っているかわかるキレッキレ画力なのでおすすめです。

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下の句:恐怖と暴力のブランディングの話(デザインの話)

普段からマンガはよく読む方だと思います。『SAKAMOTO DAYS』や『ONEPEACE』が掲載されている週刊少年ジャンプは小さい頃からよく読んできました。完全に集英党です。

その中でも『ONEPEACE』の人気はすさまじいですね。日本の漫画では最高となる国内累計発行部数4億1000万部を突破、100巻を超える長期連載にもかかわらず常にトップクラスの人気を誇っています。最近ではNetflixで実写ドラマ化もされましたね。

1997年の連載開始当時は主人公が海賊のマンガがこんなにも人気になるなんて思いもしませんでした。だって海賊ですよ、完全に反社会的勢力のテロ組織です。少年誌に掲載される作品なだけにネガティブな印象を持ったのは僕だけではないはずです。

フィクションの中では海賊の話は楽しむことができますが、現実の社会ではそういうわけにはいきません。

そうしたテロ組織のデザインについて、最近購入した『Handbook of Tyranny(暴政のハンドブック)』が興味深い視点で扱っていたので取り上げたいと思います。

もともとこの本自体は、日常にあふれる様々な残虐行為を図解やインフォグラフィックで描写し、まとめたものです。その中で、世界に240以上も存在するテロ組織のブランド(シンボルマークとロゴタイプ)が一覧で掲載されている箇所があります。

著者によれば宗教間の対立の多い中東にテロ組織が多いとのことで、アラビア文字で描かれたものが多く見られます。

デザインはとりわけ赤色が強調されていますが、この本が黒と赤の2色刷なためです。実際には緑(イスラム圏では重要な色と位置づけられる)や黄色、オレンジなど他の色もふんだんに使われています。中には明らかにPhotoshop(画像編集ツール)で加工したようなデザインもあります。

技巧的な面では総じて拙さが残るものの、そうした点を差し引いても私たちが普段目にするブランドのデザインとは大きく異なる印象を受けるのではないでしょうか。

テロ組織の特徴は非合法で倫理的に誤った活動を追求し、時に暴力やテロ行為に及ぶことです。それにもかかわらず、彼らは自身の目的やイデオロギーを広め、支持者を募り、国際的な影響力を持とうとします。

そうした相反する二つの面を持っているからでしょうか、どの組織もブランドを構成する要素やモチーフの数は多く、結果的に非常に「説明的」なデザインになっています。

この本では、モチーフについての詳細な分類とビジュアライズも行っており、この写真はテロ組織のモチーフを抽出し、分類したものです。

イスラム教の経典、コーランを模したと思われる「本」がこのように広く使われるのは特筆すべきところですね。また、「銃」のような暴力性を直接的に想起させるモチーフも多く用いられているようです。

組織によっては、「本」と「銃」が緊密に組み合わされており、意図的に「理念と行動の一体化」というデザインを志向している点も印象的です。

こうして見ると、テロ組織の多くはビジョンや理念の象徴化というよりも、行動、手段を図案化するアプローチを取っているように見受けられます。

この『Handbook of Tyranny(暴政のハンドブック)』の素晴らしい点は、こうしたテロ組織以外にも日常に潜む暴力的な行為・制度などを可視化し、疑問を投げかけている点です。

国境フェンスや壁、難民キャンプ、群衆整理の方法、刑務所の独房の各国サイズ比較や屠殺場など…私たちが慣らされてしまった日常をもう一度異なる視点で観察し、あらためて自分たちに出来ることが無いかを考える契機にしたいと思いました。

日本のAmazonからも購入可能ですので、気になった方は是非手に取ってみてください。
https://amzn.asia/d/ckRjp2Y

*本稿は、こうした一切の反社会的な活動や勢力を支持・容認するものではありません。

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おわりに

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