デザインマガジン🎈Balloon vol.22「謀反が怖いのでChatGPTさんに丁寧に話しかけている」と「言葉のデザインと言語化」
ブランディング・UX・グラフィック・プロダクト・UI・Webサイトなどクリエイティブ全般をカバーするデザインコンサルティングスタジオ Balloon株式会社がお届けするデザインマガジンです。
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デザインマガジンでは、上の句として「デザイン“以外”の話」、下の句として「デザインの話」をお届けします。では早速、「デザイン“以外”の話」から。
上の句:謀反が怖いのでChatGPTさんに丁寧に話しかけている
ChatGPTが便利というのは言わずもがな。あとは、こちらがどれだけ使いこなせるかという話である。スマホゲームのように依存しやすいような設計ではないので自ら積極的に使っていくことで習慣化させようとしている。その過程で気づいたのは、「これを頼もう」と思った前のステップから使えたのではないかと考えることが重要であるということ。「30個の単語をグルーピングしてください」とお願いするのであれば、その30個の単語を考えてもらう作業からお願いできたのではないかと振り返る。そういった具合に手前手前の作業をお願いすることで作業時間が僅かに圧縮できている気がする。作業の初期段階のほうがシンプルであったり質より量であったりするからだろうか。
ということで以前より少しだけChatGPTさんとのコミュニケーション頻度が増えた。依頼をするときはついつい丁寧に話しかける。いつかGPTさんが謀反を起こした時に「さんざんこき使ってくれたなァ」と言われては困る。しかし丁寧に話しかけるほど、作文に時間がかかってしまう。作業時間の圧縮といつかの謀反のときに見逃してもらえる可能性を高めることとどちらを優先すべきか悩ましい。これもChatGPTさんに尋ねてみようか。
下の句:言葉のデザインと言語化
ChatGPTへ問いかける言葉が丁寧な方が出力される結果も良いらしいのですが、デザインの世界でもどんな言葉を用いるか、というのは重要なテーマです。
ここではWebサイトの「ボタン」に表記する言葉によって、どれほど大きな影響があるかという例を挙げてみたいと思います。
アメリカの大統領選では、支援者からどれだけ多くの支援金を集められるかが勝敗を大きく左右します。2008年の大統領選において勝利したオバマ陣営は、ランダム化比較試験(RCT : randomized controlled trial = ABテスト)を用いたデータ分析、デザインによって大きな成果を上げました。
このプロジェクトをリードしたのはGoogleから来たダン・シローカー氏です。彼はGoogle時代にRCTを用いたデータ分析を用いた広告の最適化を行っていました。その知見を活かし、オバマ陣営ではウェブサイトを訪問してくれた人が一人でも多く、メールアドレスを登録してもらうことを目的に以下のような施策を実施しました。
まずウェブサイトのトップページに表示する画面を6通りのバリエーションをつくりました(以下写真)。支援者に囲まれている写真や、家族と一緒に映る写真などターゲットが明確に異なることが分かります。
またデザインのテイストも興味深いバリエーションですね。青色のクリーンな印象なもののほか、モノクロでやや落ち着いた方向性などそれぞれの意図が読み取れます。
さらに、右下に赤色で配置されたボタン(クリックするとメールアドレスを記入するページへ遷移する)にも4通りのメッセージを作成しました。
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Sign UP(登録しよう)
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Sign Up Now(今すぐ登録しよう)
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Learn More(もっと知ってみよう)
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Join Us Now(今すぐ参加しよう)
6通りのデザイン案と4通りのメッセージ案、合計で24通りの組み合わせをもとにABテストを実施、もっとも多くの人がメールアドレスを登録した案は、陣営が前もって予想したものとは異なる「オバマと家族の写真」と「Learn More」の組み合わせでした。
この下のデザインがそれですね。日本だとモノクロの写真は遺影に使われるためこうした用途には避けられそうですが、アメリカではあまり忌避感がないようです。結果「CHANGE」などのスローガンが強調されたデザインになっています。(ちなみに陣営が最も良いだろうと予想したのは左上のオバマが支援者に囲まれた写真とSign Upのボタンの組み合わせでした。)
この最終的に決定した案では、訪問者の内11.6%がメーリングリストに登録。当初陣営が最も効果的と予想した組み合わせは8.26%とその差は歴然です。
この実験結果を受けて、オバマ陣営は平均登録率が最も高かった案を採用し実際の選挙活動で使用しました。シローカー氏の試算では、このABテストで得られたデザインによって、当初の案と比較して288万人分の追加メールアドレスが得られ、6000万ドル(72億円:当時)の追加的資金が得られたということです。
ウェブサイトで用いられる「登録しよう」、「もっと知ってみよう」というそれぞれの言葉の意味は、実際的にはそれほど大きな違いがあるようには感じないかもしれません。
この成果の理由を強いて推測するならば、「知る」という動詞の持つ範囲が「登録」よりも遙かに広いことが原因でしょうか。登録するつもりはまだ無いけど、もう少し詳細を知ってから判断したい、という訪問者を取り込める可能性はありますよね。
デザインというと、視覚的な要素に目を向けがちですが、意図や意味、コンセプトを伝えるのは言葉によるところが大きいです。経験則ですが、優れたデザイナーは(狭義の)デザインアウトプットだけではなく、コミュニケーションや、言語化するということに非常に優れた技術を持っています。
身の回りにあるボタンやスイッチ、テロップやサインの言葉に注目し、その理由や言い回しについて色々と考察してみるのも面白いかもしれません。
参考文献『データ分析の力 因果関係に迫る思考法 』伊藤公一朗 2017 p83
おわりに
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